心の声がフルボリュームな田嶋さんと、ネカフェの黄昏時【ネカフェのバイトはきつい?現役店員が仕事内容の裏側と珍客エピソードを大暴露】

ネカフェの珍客・体験談

​はじめに:心の声にボリューム調整がつかない大人たち

​世の中には「何を考えているのかさっぱり分からない人」がいるけれど、その逆に「考えていることがすべて周囲にダダ漏れている人」というのも確実に存在する。

​私が時々ヘルプで手伝いに行く郊外のネカフェにも、そんな大人の代表選手のような女性がやってくる。

​名前は田嶋さん。見た目はいたって普通で、無地のシャツにパンツ姿、髪を後ろでひとつに結んだ、どこにでもいそうなおばさんである。だが、彼女の「普通じゃないところ」は、自動ドアが開いたその瞬間に炸裂するのだった。

​1. 宣言なしでは生きられない女・田嶋さん

​スーッと自動ドアが開くと、田嶋さんはズンズンとフロントへ進み出て、なかなかの大声で宣言する。

​「今日は!パソコンを使ってコピーをしたらすぐ帰ります!」

​こちらが「いらっしゃいませ」と言う暇すらない。さらに「私、車で来ているので!」と頼んでもいないのにナンバー用紙を自ら書き、モニターを見ながら「あ!私の好きな席が空いてる!ここを使います!」と、心の中の独り言を全開の音量でフロアに響かせるのである。

​極めつけは、伝票を渡したときのセリフだ。

​「履歴書を書いたら!すぐ帰るので!」

​ネカフェに来た目的までいちいちフロントに報告してくれる親切設計。彼女の人生に「秘密」という文字は存在しないらしい。

​しかも、彼女の大音量な実況プレイはブースに入るまで終わらない。

​フリードリンクコーナーへ向かった田嶋さんは、機械の前でピタリと足を止めると、フロア全体に響き渡る声で叫んだ。

​「お茶が入ってない!この容器はグラス戻す所に持っていきます!」

​頼んでもいないのに親切かつ大音量でトラブルを報告し、そのまま去っていく田嶋さん。

​さらにその直後、シフトを終えて上がろうとしていた高校生バイトの藤木君とすれ違うと、田嶋さんはパッと表情を輝かせて言った。

​「あ!もう帰ってる!新人くんは早く帰るんですね!お疲れ様!」

​……ちなみに藤木君は、ここで働き始めてかれこれ半年になるベテラン高校生である。決して新人ではない。

​突然「早く帰る新人」に仕立て上げられた藤木君は、カバンを抱えたまま「え……あ、はい……」と困惑の表情を浮かべ、ただただ戸惑うのであった。

​2. 自信満々の履歴書と、店長のトラウマ

​それから約1時間。田嶋さんはブースから風のように出てきてコピーを済ませ、「履歴書が出来たので!今日は帰ります!」と高らかに帰去していく。嵐のような人である。

​彼女が去った後の部屋を清掃しに行くと、書き直した履歴書の用紙がポツンと残っていた。

​なにげなく目に入ったその紙面には、長々と書かれた職務経歴と、枠からはみ出さんばかりの資格欄。どれもこれも自信に満ちあふれており、彼女の自己肯定感の高さがビシバシと伝わってくる素晴らしい出来栄えであった。

​しかし、姉妹店の店長は遠い目をしてこう言った。

​「田嶋さんさ、もう2年くらいあの部屋で履歴書作ってるんだよね……。きっと面接の時も、心の声が全部漏れてるんだろうね」

​聞けば、店長には田嶋さんにまつわる苦い過去があるらしい。

​「昔さ、俺がうっかり『もう少し履歴書は簡潔に書いた方がいいですよ』ってアドバイスしちゃったことがあって……。そしたらフロントで『店長さん!お願いします!』って叫ばれて、その場で履歴書の添削をさせられたんだよ……。あの時は本当に怖かった」

​見ず知らずのネカフェの店長にいきなり履歴書を突きつけ、怒涛の勢いで心の声を漏らし続けた田嶋さん。本番の面接でも、きっと面接官を前にノリノリで脳内放送を繰り広げているに違いない。

​店長は「もし……うちに面接に来られても、ちょっと採用は無理かな……」と、遠くを見つめながらポツリと呟くのであった。

​3. 不意打ちの「お気をつけて!!!」と、しー姉の願い

​ある日、ヘルプ勤務を終えて更衣室で私服に着替えていると、あの通る声がロビーから響いてきた。

​『今日!パソコンでコピーしたらすぐ帰るので!』

​(あ、田嶋さん来たんだな)と思いながら荷物をまとめ、ヘルプ先のスタッフに「お疲れ様〜」と声をかけて帰ろうとした、その時である。

​入室手続きを終えた田嶋さんがクルッとこちらを振り向き、満面の笑みで叫んだのだ。

​「あ!時々来ているしー姉さん!今仕事が終わったんですね!いつも、私が言われてるから!今日は私が言います!お気をつけて!!!」

​店内のお客さんたちが一斉に「なんだなんだ」とこちらを見る。

​私は顔をひきつらせ、「あ……ありがとうございます……」と蚊の鳴くような声で返し、逃げるように自動ドアを抜け出した。見ず知らずの他人に「仲間」と認定されたようで、猛烈に居心地が悪い。別に親しいわけでも何でもないのだから、どうか周りの人たちも「あの二人、普段から仲良しなんだな」などと余計な勘違いをしないでほしいと、心から思ったのであった。

​おわりに:自分にピッタリの職場を探すということ

​田嶋さんは、けっして悪い人ではない。むしろ素直で元気で、見方によっては可愛らしいおばさんである。

​けれど、もし一緒に働くとなると話は別だ。朝から晩まで「あっ、お腹すいた!」「今日の昼はラーメンにします!」と大音量で脳内放送をやられたら、こちらの身が持たない。

​「田嶋さんにピッタリの、良い職場が見つかるといいなぁ……」

​そして、「どうかその職場が、うちのネカフェになりませんように」と心から深く祈りながら、私は夕暮れの道を帰るのであった。

​……ちなみに、田嶋さんのように「自分に合った職場」を探すのは、案外むずかしいものである。

​ネカフェのバイトも、ちょっと癖のある珍客に出会う面白さはあるけれど、人によって合う・合わないはハッキリ分かれる場所かもしれない。

​「自分にはどんな仕事が向いているのかな」「人間関係がラクなところで働きたいな」と思っている人は、まずは色々な求人情報を眺めてみるのが一番である。

​自分の条件にぴったりの職場を見つけて、田嶋さんのように堂々と楽しく働きたい方は、ぜひこちらから探してみてほしい。

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