ロン毛の暴君と、酒で覚醒するロング脚【ネカフェのバイトはきつい?現役店員が仕事内容の裏側と珍客エピソードを大暴露】

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​1. ネカフェに君臨するロン毛の暴君

​ネットカフェという場所には、さまざまな背景を抱えた人間が集まってくる。

​我が店に毎日やってくるお客様の中に、なかなか強烈な存在感を放つ男性がいた。

長髪をなびかせ、頭には年中ニット帽を深々と被り、通路を「ノッシ、ノッシ」と地響きを立てんばかりの重厚な足取りで歩いてくる、巨漢の男である。

​彼はとにかく性格が神経質であった。

ドリンクバーに置いてあるグラスひとつ選ぶのにも、じーっと穴が開くほどジロジロと選り好みし、少しでも気に入らないと別のグラスへと手を伸ばす。アルバイト勢からは当然のように敬遠される存在であった。

​そんな彼のふてぶてしさを象徴する、ある「謎の光景」があった。

​時折、彼の来店に合わせて、見るからに気弱そうな小柄なおっさんが店の前に現れるのだ。

そのおっさんは、手にテイクアウトした牛丼の袋を大事そうに抱え、巨漢の男がやってくるのを健気に待っている。

​そして男が到着すると、まるで年貢を納める下僕のように恭しく牛丼を捧げ持つのである。

男は感謝の言葉ひとつ口にすることなく、当然といった顔でふてぶてしく牛丼を受け取り、ブースへと消えていく。一体どんな主従関係を結べばそうなるのか、私にはさっぱり分からない謎の格差社会がそこには存在していた。

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​2. 忍び寄る「長脚の影」と、深夜の事件

​そんなロン毛の暴君ブースの向かい側に、これまた定期的に来店する「のっぽさん」が入室した。

​こののっぽさんは背が非常に高く、普段は物静かで話し方もいたって穏やかな、いわゆる「感じの良いお客様」である。

​ところが、その夜、事件は起きた。

​フロントにいた私の元へ、あの巨漢の男が「ひそひそ……」と消え入りそうな小声でやってきたのだ。

普段の態度が嘘のようにビクビクと怯えており、話を聞くと「隣の部屋からドアを蹴られたから移動したい。ドアが壊れている」と言う。

​(あんな威勢のいい男が、相手に出てこられるのを恐れてコソコソ喋っている……)

​私はとりあえず彼を別のブースへ移動させると、工具箱からドライバーを取り出し、問題のブースへと向かった。

確認してみると、確かにドアのネジが1つコロリと外れている。しかし、隣のブースを覗いてみると、そこにいたのはシャワーを浴びに行っている最中の普通のおじいちゃんであった。

​おじいちゃんが室内から飛び蹴りを食らわせたとは到底思えない。

真相を確かめるべく、私は事務所へ戻り、防犯カメラの映像を巻き戻してみることにした。

​画面に映し出されたのは、通路に面したカメラの映像である。

じっと見つめていると、暴君の「お向かい」のドアがスッと開いた。

​次の瞬間——。

​部屋の中から伸びてきたのは、通路に足を一度も着けることなく、美しい放物線を描いて向かいのドアへと叩き込まれた、圧倒的に長い脚であった。

​「ダイレクトに届くんだ……脚、ながっ!」

​防犯カメラの前で、私は恐怖よりも先に、彼の異次元な脚の長さに変な感心をしてしまったのである。犯人はお隣のおじいちゃんではなく、向かいの「のっぽさん」であった。

​3. 酒とイビキと、10万円

​実は、巨漢の男は重度の「大爆音イビキの持ち主」であった。

日頃から周囲の部屋からクレームが相次ぎ、私たちが注意しに行くこともしばしばあったのだ。

​今回も例に漏れず、ブース内で爆音を轟かせていたらしい。

のっぽさんは店員に言えばいいものを、あまりのうるささに耐えかね、自らの自慢の長脚で直接「物理的な天罰」を下してしまったというわけだ。

​真相が判明したため、私はのっぽさんのブースへと注意に向かった。

すると、昼間の穏やかなのっぽさんはどこへやら、彼はすっかり酒に酔っ払っており、別人のように気が強くなっていたのである。

​「弁償すればいいんだろ! ほら!」

​そう言ってポケットから札束を取り出し、10万円をドーンと突き出してくるのっぽさん。

(いや、そういう問題じゃないんだよお兄さん)

​私はその10万円を冷ややかにスルーし、「当店で暴力を振るう方はお断りです。次は即・出禁ですからね」と氷点下のトーンで厳しく警告を与えたのであった。

​翌日。

店にやってきたのは、すっかり酒が抜けて青ざめた顔をしたのっぽさんであった。

昨日の暴君ぶりの面影は一切なく、「昨日は本当にすみませんでした……また利用しても良いでしょうか……」と、オドオドしながら平謝りしてくる始末。

​酒が入ると暴虐の長脚を繰り出す男と、下僕を従えるほどふてぶてしいのにやり返されると途端にビクビクしだす男。人間の裏表というのは、本当に恐ろしいものである。

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​4. 誰も得をしない結末と、一人の勝者

​この事件の後、あれほど毎日来ていた巨漢の男は、すっかり怯えてしまったのか二度と姿を見せなくなった。

そして事態を引き起こしたのっぽさんも、気まずくなったのか足が遠のいてしまったのである。

​常連客を二人同時に失う形となり、スタッフからしたら敬遠する客でも、お店からしたら売り上げが減るわけで、売上の観点から見れば、まさに「誰も得をしない悲劇の結末」であった。

​……と、思っていたのだが。

​ただ一人だけ、この泥沼劇によって「最高のハッピー」を手に入れた人物がいた。

​そう、あの「下僕のおっさん」である。

​毎夕、店の外で冷たい風に吹かれながら、いつ現れるかも分からない巨漢の男のために牛丼の袋を握りしめて待っていた、あの小柄なおっさんだ。

​男が来なくなって以降、そのおっさんはなんと頻繁に我が店へとやってくるようになった。

フロントで「カレーライス!」と嬉しそうに注文し、広々としたブースで誰に気を遣うこともなく、心から満足そうにネカフェを満喫し始めたのである。

​あの長脚の一撃は、店にとっても男にとっても悲劇であったが、巡り巡って一人の男を長年の「下僕生活」から解き放つ、救いの蹴りとなったのかもしれない。

​ネットカフェのフロントは、今日も今日とて、人間たちの複雑すぎる利害関係が交錯する奇妙な現場なのであった。

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​さて、今回の「普段は穏やかなのに、酒が入ると凶暴な脚を繰り出す男」や「理不尽な主従関係から思いがけず解放された下僕おじさん」のドラマを読んで、「天下の権力構造が一変するシュールさ」を味わいたくなってしまったあなたへ。

​ネカフェの個室で、美味しいカレーでも食べながらページをめくってほしい、極上の転生コメディをご紹介しよう。

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​乙女ゲームの「悪役令嬢」に転生してしまった主人公……かと思いきや、なんとその体に憑依したのが、あの最戦国強の覇王「織田信長」

だったという、頭のネジが飛び跳ねたような設定の物語である。

​本来ならヒロインをいじめたり、破滅のルートへ向かうはずの軟弱な貴族社会の人間関係など、第六天魔王・信長にとっては知ったこっちゃない。

「控えよ下衆が!」と言わんばかりの圧倒的武力と戦国思考で、貴族たちの陰湿な嫌がらせや学園の権力争いをバッサバッサと物理的に叩き潰していく姿は、読んでいて爽快そのものだ。

​今回の話で、デブ男の理不尽な恐怖政治がのっぽさんの「長脚の一撃」によって一瞬で崩壊したように、圧倒的な力が理不尽な日常をぶち壊す瞬間というのは、どうしてこうも面白いのだろうか。

​信長の破天荒すぎる活躍に爆笑しつつ、ストレス解消にもぴったりの一冊である。ぜひネカフェの静かなブースで楽しんでいただきたい。

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